〈コンセプト〉
まちのリビング
み館では新しいつながりを育む場所として、定期的に教室やワークショップを開いています。誰でも先生や生徒になれる、開かれた学び場です。そこに集う人たちが、ポロっと偶発的に口からもらした言葉をキャッチしたいと思っています。人は困ったとき、行政等に相談に行く前に、まずは家のリビングで悩みごとを話すのではないでしょうか。
〈特色〉
社会福祉法人の公益事業として運営しています。法人を2015年に設立したとき、すでに地域にある多くの他法人が、公益性のある取り組みとして、夏祭りや秋祭りを開催していました。これ以上、町内でお祭りを増やす必要はないなと思って(笑)。年に1回や2回ではなく日常の中で、町民の方々に何か知恵や知識を還元していける仕組みづくりをと考えました。
もともとこの場所はデイサービスで、その後3年ほど倉庫として使っていました。以前から人通りはあるけど、建物には関心をもたれていない状況でした。そこで、「み館」としてデザイン性のあるフルオープンの空間を設えて、視線を集め導線に導くために、職員やうちの入居者(2階から上がグループホーム)が先生となって教室を動かす。そこで出会った職員、入居者に日常的に会いに行ってもらえるような、そんな仕掛けや、仕組みづくりをマネジメントしています。
〈運営コスト〉
地域の先生が知恵や知識を共有するのを応援するスタンスなので、非営利であれば貸し切り利用料を減免しています。キャッシュが生まれなかったとしても、それで予算が変わることは現時点ではありません。
スタッフは4名。私は企画や運営等考えることが担当です。館長は、助産師資格をもっている看護師の女性で、「特養かがやき」と「み館」を半分ずつ受けもっています。タイ出身の介護福祉士の女性は、グループホーム8割、み館2割の働き方をしていて、システムエンジニアの男性は「ひととまちとくらしの学校」のマネジメントをメインにしています。施設のICTサポートもしてくれて今や欠かせない存在です。全員法人内でダブルワークしているような状況で、専従スタッフはいないので、人件費は影響が出るほどのものにはなっていません。
〈やりがい、モチベーション〉
私自身にとって居心地のいい環境をつくろうとしているだけ、の気がしています(笑)。
若い頃、海外をバックパッカーで旅するのが大好きでした。定年後にまたそれをするのでは感動体験が違うので、なるべく早くそういう生活に戻りたいんですよね。インターネット環境があれば、世界中どこでも今の仕事ができます。「カナダ横断、南米縦断をやりたいね」と妻と話していますが、自分だけ好きなことをやっていてもね。職員にも働き方を自由にデザインする権利を認めないと。私がやりたいことを達成するために、私の働き方を「みんなの当たり前」にしていかないと(笑)。そのために一生懸命になっています。
〈人材確保の方法〉
法人グループ職員のダブルワーク。また、み館に通ってくれている人たちが活動に「加わりたい。」と声をあげてくれることが多いです。この3年間は全く求人活動を行っていません。残念ながら退職者はいますが、今は職員が職員を連れてきてくれるような環境があり、み館で、ながよ光彩会の福祉に触れ、仲間になりたいという方も出ています。
〈人材育成の仕組み〉
私は「自由」を与えられると、それ以上の成果を出そうとモチベーションをもつタイプなので、他の人も「自由」を与えられると喜ぶと思っていました。ところがこの3年、多くの子は「自由」を与えられると困るということを知りました。
職員は、全員1~177時間のうち好きな時間帯を勤務時間としてあてて良いことになっています。働き方をデザインできる環境と仕組みで手を挙げてくれたのは、思ったより少数でした。まずは、手を挙げてくれた職員をモデルとして、み館のスタッフとして、ダブルワークで採用して、介護現場で働きながら自分の好きなことを仕事として認めてもらえるのだと実感してもらいます。実例を何人かつくっていかなければ、他の職員たちに伝播していかないと思っています。
そのような中、来年度(2021年4月)からダブルワークしたいという職員が3人手を挙げてくれました。
コーヒーの焙煎が好きなので週末コーヒーの淹れ方教室を開いて、飲みながら地域の方と地域課題を話す空間をつくりたいと希望する人が一人。別の職員は、面談の中で、もともと本屋の店員で、お客さんが求めている本を提案する仕事をしていたことがわかりました。入居者やみ館に4月に配属された職員のための本を選んだり、子どもたちに絵本の読み聞かせ等をしてはどうかと提案すると「めちゃめちゃやりたいです!」と。
みんなやりたいことはあるのだけど、それを表現する場や時間がないだけなのだと思います。「自由があったら何したい?」ではなく「介護福祉士じゃなかったらどんな仕事をしている?」という問いかけをすると、色々な答えが返ってきました。好きなものを福祉と、いかに掛け合わせていくかが、私の仕事ですね。
当法人の高齢者福祉のテーマは「物語の支援」で、ケアプランに「プラスワン夢をかなえる」を入れ、入居者の生活を豊かにするということにずっと取り組んできました。ふと立ち返ったときに、職員をほったらかしていることに気がついたのです。職員がずっと介護の仕事をやりたいのか? 一つの箱の中で働きたいのか? そこを鑑みたときに、職員の夢や得意なこと、好きなことを支援していきたいと思いました。そこからのスタートです。
職員の子どもが、将来の夢に「み館で働く」と書いてくれたことがあって、嬉しかったですね。若い人に福祉を教えているというのはそんなにないんですよ。小中高校生にとって、日常的に目にする仕事が、自分がなりたい職業にあがってきます。み館で現場職員にダブルワークしてもらうことで、地域の子どもたちがそこで出会うお姉さん、お兄さんが介護福祉士や看護師、理学療法士だったりして、日常で会う仕事の一つに介護の仕事が当たり前にあるというのを目指しています。
あくまでも興味をもってもらったときに、はじめて自分は何者だということを伝えています。「この人みたいになりたい」と相手が思ったときに初めて、私たちの仕事が選ばれると思っています。
〈失敗経験・苦労していること・課題〉
ターゲットをもっともっとクリアにしないといけないと自分自身感じているし、職員にも求めています。例えば、来年度の事業内容が決まっていても、それを誰に届けたいかと考えたときに自分の中に「〇〇の状態にある〇〇さん」という具体的なイメージがない場合、資料づくりが進まなくて。社会課題としてある問題に対して、こんなことをやれば解決の一助になるなと漠然と計画を立てるのは、すごく良くないなと思いました。
教室を展開するときでも、対象を絞らないとすべてがブレてしまいます。その結果、どうやって人を集めるかに労力を使うのは違うと。そこは、ずーっと繰り返してしまっています。きちんとターゲットを決めてその人に届けるという圧倒的なものをつくらないと、どこか他がやっている何かと変わらなくなってしまいます。「誰にどのように届けるか」を私たちは大事にしたいです。
〈持続する仕組み、工夫〉
まずは職員と家族、利用者と家族に豊かな時間や生活を提供するために、み館をどのように活用するかがメインです。そして友人家族も幸せじゃないと、職員家族にも影響してくるので「これすごく楽しいから今度一緒に行かない?」と職員が友人家族を誘ってきてくれる。それくらいでちょうどいいと思っています。
教室等で聞いた悩みごとを1年分集めて、来年度事業としてそれを行うかどうか、今ディスカッションしている段階です。町のニーズがあるから私たちは来年度事業を提供するだけであって、ニーズが確実なんですよね。提供するときにはすでに顧客がいる状態です。ニーズを発信してくれた地域の方々をいかに次の事業にまきこめるかというのも、戦略としてもっています。
〈これからの事業として方向性〉
施設にお孫さんが遊びに来たときにお小遣いを渡してあげられなくて、「ごめんね」と言う入居者の方々を目にしてきました。孫にお小遣いを渡すことは大切な尊厳の一つ。み館で入居者が先生のワークショップを行っているのは、お孫さんに渡すお小遣いぐらいは収入を得られる仕組みをつくろうと思ったからです。4月からは社会福祉法人の定款に収益事業を追加して、子ども、職員、入居者がつくったものを、み館や町内のお店で販売する予定です。み館プロダクトによるユニバーサルデザインがしっかりあるものを、町民に届けていくことにチャレンジしていきます。
■事業名:みんなのまなびば「み館」
■事業者名:社会福祉法人ながよ光彩会
■取材協力者名:貞松 徹(社会福祉法人ながよ光彩会業務執行理事)
■事業所住所:〒851-2128長崎県西彼杵郡長与町嬉里郷592-1-1F
■サイト:https://mi-kan.jp/
■取材・まとめ:下猶 好恵(小規模多機能型居宅介護勤務)
■取材時期:2021年2月