〈コンセプト・特色〉
誰もがいていい、"未完成"の場づくり
〈取り組みの概要〉
京王線の多磨霊園駅を降りて徒歩2分のところにタマレはあります。
医療福祉と地域コミュニティの2つを軸とするシンクハピネスという会社を経営しています。事業内容は、訪問看護ステーション、居宅介護支援事業所、そしてカフェを中心とした、地域コミュニティづくりです。医療福祉では、質の高い医療福祉体制を構築し、地域での医療の受け皿を広げることで、誰もが人生の最期を住み慣れた地域で迎えるための選択肢をもてる社会を目指しています。カフェを中心としたコミュニティづくりでは、周辺の空きアパートや空き店舗に、子どもの居場所や中高生の学びの場、子育て中の母親の居場所、コワーキングスペース、お菓子工房、アトリエ、八百屋等を誘致し、地域コミュニティづくりを行っています。これらの取り組みを村づくりと呼び、通称タマレと呼んでいます。
〈運営主体について〉
「株式会社シンクハピネス」
「FLAT STAND(カフェ)、LIC訪問看護リハビリステーション(訪問看護)、life design villageFLAT(居宅介護支援)」を中心に、Lantern(お菓子工房)、Spacile(インテリアデザインスタジオ)、Hi PRESS(銅版画工房)、あそびのアトリエズッコロッカ、中高生の学びの場 Posse、シェアリングワークスペース i部屋、F.F.P(アパレルブランド)、NPOシェアマインド(食品ロス、食糧支援)、ほぐし処イルカ(リラクゼーションサロン)、Jimono(地元のお野菜)、そして地域のみなさんと一緒につくっています。
〈取り組みをスタートした時期〉
2016年6月23日
〈取り組みをスタートしたきっかけ〉
2014年にシンクハピネスを立ち上げたときから”タマレ“の構想があり、カフェを入り口とした、医療や福祉、教育、子育て、食、就労、アート、居場所などがある、地域コミュニティづくり(村づくり)を進めています。
この取り組みは、理学療法士として病院や訪問看護で働いていたときに経験した2つのことがきっかけとなりました。1つは、僕自身が理学療法士として病院で働いていた頃に、医師や看護師、理学療法士などの専門職と、入院している患者さんが「ケアをする人/される人」という関係性になっているのではないかという違和感です。
もう1つは、自治体主催の地域住民同士でまちづくりについて意見を交換する場に参加したときに、「僕は理学療法士です、何か困っていることはありませんか?」と自己紹介をしたら、「あなたたちは病院の人間でしょ。地域のことなんかわからないくせに、そんなことを言うんじゃないよ」と言われてしまった経験があります。
これらのことから、僕らは医療のことは知っているけれど、患者さんがどんな所で、どんな暮らしをしているのかをよく知らないまま、医療を提供しているのかもしれないと気づかされました。医療者が患者さんの暮らしやまちのことを知れば、提供する医療も変わってくるかもしれないし、まちの人たちがちょっとした医療福祉の相談ができる場になるのではないかと考え、カフェをスタートさせました。ここは医療者が運営しているとは謳わずに運営しています。コーヒーを通じて、関係性をつくっていく中で、何かあったときに「実は僕らは医療者なんです」って言うことができれば、“患者と医療専門職”ではなく“人と人”としてかかわることができるのではないかと考えたからです。これがタマレの始まりです。

〈運営コスト〉
運営資金の調達がすごく苦手で、いつも自分で血を流せば良いやと考えてきた5年でした。ここ1年で少しずつ考え方が変わってきていて、資金調達に関しても真剣に考えるようになってきました。シンクハピネスに関しては医療福祉事業という会社の軸があり、ここがキャッシュポイントになっています。
タマレ事業に関しては、それぞれが独立して運営しているので、はじめは整備などで費用がかかりましたが、現在は日々の運営に関してほとんど費用はかっていません。ただ、この後にも書きますが、将来のビジョンがあるので、そこに向かって公的資金や企業とアライアンス、一緒に村づくりをしてくださるような方の賛同を得るために、動いていきたいと思っています。
〈運営に必要な費用概算〉
60~80万円/月
〈運営資金の確保〉
自費、介護保険、医療保険
〈これまでに苦労したことと、それをどのように乗り越えてきたか〉
資金面のやりくりが一番の苦労でした。カフェ開業にあたっての諸費用はもちろんですが、その後の村づくりのために使わせていただけることになったアパートが、5年以上新規入居者を募集しておらず、部屋の清掃もされていない状況だったので、まずは最低限の整備(最低限の清掃費と電気ガス水道の整備費が主な費用)を自分たちでする必要がありました。クラウドファンディングなども考えましたが、当時は支援していただいた資金に対して、それ以上の価値をお返しする自信がなかったので、覚悟を決めて自己資金で乗り切りました。
〈うまくいっていること、やってよかったと思うこと〉
去年から「ダレカノチケット」という取り組みを始めました。このチケットは買った人が使うのではなく、ダレか(子ども:小学生と中学生が対象)が使うチケットで、購入していただいたチケットはレジ脇に貼り出され、子どもが使うことができます。
「誰かのために、という気持ちが地域で循環したらいいよね。」そんな”pay it forward”という気持ちで成り立っていて、ダレカノチケットを買っていただいた想いがカタチとなり、そのカタチが想いとなって、地域に循環していってほしいという想いで始めました。
それまでは、駄菓子を置いていただけで、「僕らから子どもたち」という一方通行の関係だけでしたが、ダレカノチケットが始まってからは、特に高学年の子どもたちが「自分も誰かに使ってもらいたい」と言って、使う方ではなく買う方に回ったり、帰って親御さんに話をして、話を聞いた親御さんがチケットを買いに来てくださったり、お友だちに紹介して下さったりと、「FLATSTANDと子どもと大人と地域」というように、多方向の関係性が出てくるようになったと思っています。

〈うまくいっていないこと、今、悩んでいること〉
「タマレに立ち寄れない方たちに対してどのような取り組みをしていくか」です。これは、この先ずっと抱えていく課題なのではないかと思っています。
誰でもふらっと立ち寄れる場にしたいという思いでやってきていますが、身内感が強くなってしまったり、立ち寄りづらいという雰囲気が出てしまっているのは確かです。コミュニティをつくればつくるほど、安心安全がつくられていく一方で、そこから外に出てしまう人が出てきてしまうのではないかと思っています。今何かをすれば変わってくるというわけではないと思うので、日々の暮らしの変化に合わせて、タマレを変化させていくことが大切だと感じています。
〈持続させるための仕組み、工夫〉
人との距離感や関係性のつくり方は、とても意識をしています。「タマレ」のコンセプトは大きく2つあって、1つ目は、「誰でもいていいんだよ」という、半生(はんなま)で未完成の村づくりです。「コミュニティとかイベントには参加したくないけれど、その場にはいたい」という人もいると思います。また、まちづくりとかコミュニティづくりって聞くと、「ワクワク、楽しい、うれしい、キラキラ」みたいな想像をされる人が多いと思うんですが、これだと、そこに来れない人が出てきてしまう。
そうではなくて、「悲しい、嫌だ、恥ずかしい、つらい」、そんな想いも一緒にいられる場をつくっていきたいです。僕らの村は誰も主役になりませんし、場所自体にも色をもたない。人の暮らしは365日、毎日違います。半生で未完成という余白があるから、その時々によって形を変えていける、そんな場づくりをまちのみんなと続けていくことで、持続しながらも深化していけると思っています。
〈今後のビジョン〉
現在まで、さまざまな方たちがタマレに入ってくれています。
将来的にタマレは、診療所や訪問看護ステーションなどの医療だけでなく、就労継続支援の作業所、八百屋さんや本屋さん、パン屋さんや居酒屋さん、住居があって、子どもからお年寄りまでさまざまな立場の人が対等な立場で暮らし、困ったときに助け合える関係性をつくり続けられるようなコミュニティを目指しています。
また、医療を軸として地域の関係性をゆるやかにつくっていくことによって、ヘルスケアだけではなく、教育や子育て、ジェンダー、就労、食などの地域課題に対してみんなで考え、取り組むきっかけとなり、それぞれが穏やかに暮らすことのできるまちを、みんなでつくっていくことを目指しています。次の取り組みとしては、2021年4月から、縁側プロジェクトとしてウッドデッキづくりを地域のみんなと一緒にやっていきます。
■事業名:タマレ
■事業者名:株式会社シンクハピネス
■取材協力者名:糟谷 明範(株式会社シンクハピネス代表取締役)
■事業所住所:〒183-0015 東京都府中市清水が丘3-29-5
