〈コンセプト・特色〉
買い物を通じて生活の動線上での応用的なリハビリテーションができる事業
〈概要〉
地域住民が往来する商業施設(=生活の場)の中にサロンを設け、フレイル・プレフレイル状態にある高齢者を自宅からサロン(商業施設)まで送迎し、体操(=ポール体操:作業療法視点によるウォーキング用の杖を使用した体操プログラム)、歩行練習(=商業施設内をモールウォーキング)および買い物という生活行為を通じて、自宅の冷蔵庫の中身の想起、品物の選別や金銭の支払い、店員とのコミュニケーションから認知機能を高めるプログラム(=ショッピングリハビリ®)を提供しています。
心と体の両方を一度に元気にするプログラムを通じてフレイルを予防するという、これまでにないまったく新しい介護事業として、全国へと展開しています。
取り組みには、大きく3つのポイントがあります。
①従来の“がんばる”介護予防・リハビリではなく、“自然で楽しい”介護予防・リハビリの実現により、多くの高齢者の参加が得られています。
②商業施設という日常にありながらバリア“アリー”の環境下でリハビリ行うことで、身体だけでなく認知機能も自然に高めることができます。
③高齢者の閉じこもり予防や買い物弱者支援、地域経済の活性化等、事業を通じて介護予防以外の社会課題解決にも同時に貢献しています。
〈運営主体〉
「ショッピングリハビリカンパニー株式会社」
2019年4月に光プロジェクト株式会社から収益事業であるショッピングリハビリ事業を切り離し、株式会社ケアビジネスパートナーズをはじめ他社とのジョイントベンチャーの形態で設立しました。
島根県雲南市に本社を置き、商業施設で買い物しながらのリハビリを実現させたショッピングリハビリ🄬事業を、身体に不安を抱えた方の長距離歩行を可能にするべく開発した楽々カート®(ショッピングリハビリ専用の買い物カート)とともにフランチャイズ形式で全国の介護事業者様へ提案し、事業としての導入を働きかけています。
〈取り組みをスタートした時期〉
2019年4月1日
〈取り組みのきっかけ〉
もとは創業者である杉村(当社取締役Founder)が2010年9月に個人でスタートした事業がきっかけです。
病院でセラピストとして働く中で、担当する高齢者に提供するリハビリプログラムに疑問を感じ、次第に「やらされるリハビリではなく、やりたいと思えて元気になれるリハビリを」「目的のあるリハビリを」提供したいと考えるようになりました。一方で、多くの高齢者から「買い物に行きたい」「外出したい」との声を聞き、それを組み合わせる形で事業モデルを構築しました。
まずは専用カートとして楽々カート®を開発し、多くの試作を経て特許権・意匠権を取得し、これまで多数の商業施設へ納品してきました。
これらの取り組みが、現在に続くショッピングリハビリ®事業をスタートさせるきっかけです。
〈運営コスト〉
既存の事業店舗では、主に各自治体が保有する「介護予防・日常生活支援総合事業」の予算を活用する形で実施しています。
予算概算としては、週1回(月4回)の利用でおよそ1万2,000円~1万3,500円/人(地域によって単価にバラつきあり)、月間で約120名が参加されたとして概算すると、総額は144万円~162万円となります。
このうち9割が自治体負担(1割が受益者負担)となるため、1事業所あたりの月額自治体予算額は、およそ129万6,000円~145万8,000円となります。
今後は要介護者の受け入れも積極的に行い、現行型通所介護事業所としての事業運営を目指しています。総合事業対象者に加えて要介護者をお客様とすることで、地域において幅広い層の高齢者へサービス提供が可能となり、それにより事業としても安定し、事業の持続可能性が増します。
〈運営に必要な費用概算〉
約150万円/月
〈運営資金の確保〉
自費、介護保険、その他の公的補助、自治体予算
〈これまでに苦労したことと、それをどのように乗り越えてきたか〉
当初は、商業施設に楽々カート®が備え付けてさえあれば、歩行が不自由な多くの高齢者が使ってくれて便利に楽しく買い物ができると考えていましたが、期待とは違い実際はまったく稼働せず、導入した楽々カート®は埃をかぶってしまう状況がうかがえました。導入施設を確認したところ、円背やО脚などを呈しているお客様は来られているものの、その方々が楽々カート®を使用されることはほとんどありませんでした。
対象と思われる方々に「楽々カート®を使ってみてはいかがですか?」と声をかけたところ、「まだ、そこまでお世話にならなくても大丈夫……」といった返答があるばかり。
楽々カート®を置いておくだけでは高齢者のリハビリや買い物支援はできないことを痛感し、家や施設から外出ができない高齢者が、このカートで安全に買い物をするための介入(お手伝い)をすることで、楽しみながらリハビリをして元気になってもらえる仕組み(=事業)をつくれないだろうかと考えるようになりました。それが、楽々カート®という「モノ」だけを販売するのではなく、送迎と介護予防を実施する「コト」を組み合わせて提供していくという現在の事業モデルにつながりました。
〈うまくいっていること、やってよかったと思うこと〉
これまでにショッピングリハビリ®を提供する「ひかりサロン」を全国で7店舗(2021年3月時点)展開しており、今夏までに10店舗となる予定です。
核店舗での取り組みを通じて、改めて地域社会の課題解決に貢献できることを実感しており、具体的には以下の点に手ごたえを感じています。
①要介護状態とならないための予防の取り組み
ショッピングリハビリ®では楽しく買い物する間に長い距離を歩き、また記憶の呼び戻し(自宅冷蔵庫の中身の想起など)、商品の選定、お金の計算や支払い、店員とのコミュニケーションなど、脳への効果も期待できる最適なリハビリ運動です。
そして、買い物は日常生活の一部であり楽しんで行えることから、その他リハビリ事業と比べて利用者の継続率は極めて高いと言えます。利用継続はリハビリ効果に直結し、結果として介護予防に寄与します。
②買い物弱者対策
本事業では送迎サービスを行うため、身体に不安があったり、出歩く手段を持たないことが理由で外出しなかたったりする方のサポートができます。高齢化が進む我が国において、買い物弱者問題は、食料品アクセス問題とあわせて社会的な課題とされており、単に身体機能の低下だけでなく栄養状態の悪化にもつながる恐れがあります。
また、免許返納後の高齢者の買い物支援対策の一助にもなり、高齢化が進む地域(過疎地等)の買い物難民等の課題解決策にもなり得ます。
③地域経済の活性化
本事業の出店場所は、地域住民の集い場であるショッピングセンターなど商業施設です。
高齢者の来店を望む商業施設にとって、我々は価値あるテナントとなり、多くの高齢者が出かけることで店も街も賑わい、結果として本事業の拡大が地域経済の活性化にもつながります。
また、商業施設によっては大手の進出等に苦しみ空きテナントが存在する場所も多く、そういった施設・場所の再生にも貢献できます。
④ 社会保障費の抑制
厚生労働省の統計発表(2020年4月)によれば、介護保険受給者1人当たりの毎月の費用額(全国平均)は、介護予防サービスが28.1千円に対して介護サービスは198.4千円と7倍以上の実績となっています。
高齢者の健康寿命が延びることは医療福祉サービスにかかる人口の減少に直結し、結果として国全体の社会保障費の抑制に貢献することができ、介護予防の重要性を訴える国の方針にも合致する取り組みとなります。
〈うまくいっていないこと、今、悩んでいること〉
①事業としての収益性
現状は介護事業として介護保険制度に依存していることから、制度改定や行政・自治体の意向に影響を受けやすい事業だと言えます。
総合事業分野は注目を集めながらも報酬単価は決して高いとは言えず、取り組む事業者にとって収益性を高めることは大きな課題であり、同時に本部である当社の課題でもあります。
②開業までの制約条件
事業としてスタートさせるまでに「取り組む事業者」「入居可能な商業施設(40坪前後のスペース)」「自治体(保険者)の許認可」のすべてが揃う必要があり、どれが欠けても開業することができません。
また、事業への関心を得てから開業までに時間を要することから思うように展開できておらず、効率性に課題を感じています。
〈持続させるための仕組みや工夫〉
①介護事業としての展開可能性
現在の「総合事業対象者」を中心とした顧客受け入れに加えて、「要介護者」を対象とすることで事業収支を大きく伸ばすことが可能となります。リスクの増加に伴い人員の補充など追加コストも必要となりますが、要介護者は要支援者に比べて介護保険の報酬単価が大きく、収支改善にも貢献します。
なにより1人でも多くの方を顧客対象にできることは地域課題への貢献度合いを高めることにもなり、事業者にとって大きなモチベーションとなります。
②介護事業との連携
ショッピングリハビリ®事業について、全国の介護事業者を中心として営業しています。介護事業者は、地域で要介護者を顧客とした介護事業経験を持ち、専門の人材やノウハウを有しており、企業としての事業ポートフォリオ戦略において価値を感じてもらえます。
また、ショッピングリハビリ®事業では介護業務において敬遠されることの多い入浴・食事・排泄介助業務がなく、採用難と言われる中においてもスムーズな採用や定着が期待できます。
③マーケット(総合事業対象者)の拡大
介護保険制度の見直しが議論される中で、厚労省など国は総合事業対象者の拡大を大きなテーマとしており、いずれ要介護と要支援の垣根は見直されることが決定的と言われています。
近い将来には、要介護者のうち軽度者(比較的介護依存度が低い方)を含めて市区町村にてサポートする総合事業対象者は増加することが予想されており、マーケット先行者としてショッピングリハビリ®事業に追い風となります。
④サロン事業としての展開可能性
介護事業として実施するサービスだけでなく、多くの地域住民が行き交う商業施設内にまとまったスペースを有することから、さまざまな場所の活用が考えられます。
すでに先行店舗では「女性向けフィットネス教室」「子供向けダンス教室」「地域向けマルシェ」「各種セミナー・講演会」など、介護事業以外にさまざまなサービスの提供や場所貸しを実施しています。
本業以外の収益獲得はもちろん、高齢者だけでなく地域に住むすべての方にとって親しみを持てる場所となることは会社としてのブランド価値を向上させ、結果として本業である介護に関する相談にもつながることが見込めるなど、シナジー効果は大きいものと考えています。
〈今後のビジョン〉
①SIB事業として「経済(Business)と道徳(Social)」両立の実現
弊社には「高齢者を“光”齢者に」というコンセプトがあり、大切にしています。
「ショッピングセンターで買い物を楽しめる」という身体的自立だけでなく、「再びオシャレを」「生きるほどに美しく、格好良く」を実現することで精神的自立にも貢献する事業モデルでなければ多くの人と街は元気にはできません。今あるリハビリテーションの大半が機能訓練に特化した内容であり、生活機能の改善や社会参加に直結しているとは言い難いものです。ショッピングリハビリ®は社会参加を含めた真の自立支援を可能とします。
2019年には厚生労働省PFSモデルに雲南市のショッピングリハビリ®の取り組みが採択されており、今後はその他各地の地域課題解決につながるインパクトを創出しつつ、そのインパクトに応じた成果連動型委託事業であるSIB(ソーシャルインパクトボンド)にもチャレンジし、介護保険制度に依存しない事業モデルを構築していきたいと考えています。
実際に介護保険だけに頼らないモデルとして、地域に既にある地域交通を活用したショッピングリハビリ®を企画中であり、事業運営費は一部の補助金と住民からのファンドレンジング、そして高齢者が元気になることでメリットを享受する企業からの資金調達というモデルを考えていますが、こういったモデルが多数生み出されることで特色あるサスティナブルな地域モデルが生み出せると考えています。
②SDGs企業としての成長
先述の通り、ショッピングリハビリ®は受益者ではなく買い物弱者対策や商業施設の活性化など、受益者本人以外にも様々な部分にインパクトが期待できるビジネスモデルです。
人だけでなく、街もあわせて元気にし、持続可能な街づくりモデルとしてイニシアチブをとれる企業として成長していきたいと考えています。
③ICTとのコラボレーション
社会的インパクトを内外に示すため、またリハビリとしての効果を高めるため、定性評価だけでなく定量評価が重要となります。
本事業を通じて利用者の歩数(歩行距離)・バイタル測定値・買い物データなど取得することが可能であり、こういったデータを活用した事業のためICTとの連携を想定しています。身体面だけでなく定期的な認知機能の測定も可能であり、これまで測定が難しいとされていた「社会参加や地域との繫がりが健康に与えるインパクト」など、当社ならではの評価を出すことが可能です。
④海外への事業展開
日本は世界に先駆けて超高齢化社会に突入しており、日本の現在の課題は世界の10年後・20年後の課題と言われています。
楽々カート®とともに、ショッピングリハビリ®事業を通じて日本が先行して経験した課題解決方法を世界に届け、世界中の人・街を元気にする取り組みとして広げていきたいと考えています。
すでに海外メディアの取材や外国企業の視察受け入れなど実績があり、ユニークな取り組みとして評価を得ています。
■事業名:街の商業施設でフレイル予防を実現する「ショッピングリハビリ®」事業
■事業者名:ショッピングリハビリカンパニー株式会社
■取材協力者名:尾添純一、杉村卓哉、土居英雄
■事業所住所:〒699-1311 島根県雲南市木次里方30‐2