〈コンセプト・特色〉
介護保険から卒業することが目標ではなく、その後の地域社会での生き方・過ごし方を考えて関わる取り組み
〈概要〉
株式会社つるかめの4つある通所事業所はリハビリに特化しており、それらすべてが要介護認定からの卒業を目標にしています。各事業所では、一人ひとりが自身で決めた「目標」に向かって、さまざまなリハビリを行っており、中には社会復帰を目標にするご利用者も少なくありません。そういった方を中心に、介護保険の認定が外れる、つまり「介護保険の卒業」を目標に、具体的な目的を持って職員と二人三脚でリハビリに励んでいます。
実際に、毎年幾人もの卒業者を輩出していますが、大切なのは卒業した後の「過ごし方」であり、その後の活躍の場を設けることが、卒業させた事業所の果たすべき役割であると考え取り組んでいます。実際には、シルバー人材センターに登録する人、自営農業の第一線に復帰する人、地域のボランティア活動に励む人、中には利用していた事業所の送迎車輛の洗車に来たり、事業所内のスタッフとして活躍したりと、地域の人的資源として大いに活躍しています。
この事業では、要介護認定された方も永久に要介護者ではないこと、どんな状態でもモチベーションは高く、事業所等の支援を受けながら地域の人的資源として活躍できることを実証しています。
〈運営主体〉
「株式会社つるかめ」
2004年より山形県天童市内において介護事業を開始。2017年に株式会社つるかめの系列法人として「社会福祉法人つるかめ」の認可を受け、つるかめグループとして山形県天童市内に10の介護事業所(居宅支援介護事業所、通所介護事業所、介護予防センター、小規模多機能型居宅介護事業所、ショートステイ、グループホーム、特別養護老人ホーム)を経営しています。また、福祉機器等の開発や各種研修・セミナー事業などを行っています。
〈取り組みをスタートした時期〉
2008年4月1日
〈取り組みのきっかけ〉
長きにわたり高齢者福祉に携わってきた中で、昨今の高齢者(利用者)像は大きく変化しています。これまでの高齢者は、社会(会社や自営業など働く場所)からリタイアし要介護者になった途端に、デイサービスなどに通うことが当然だと思い、過ごしてきた方が多いと思います。しかし、最近の高齢者はまったく違ったニーズをもっています。
取り組みのきっかけは、デイサービスに通う要介護者からの言葉として、「もう一度働きたい」「会社はダメでも、まだまだ地域でやれることはあるはず」「これから先が長いのに、何もしない人生は嫌だ。何か自分でも役に立てることがあるはず」等々、とても前向きな思いを耳にすることが飛躍的に増えていることでした。
介護経営をする中で、デイサービスの役割は「支援=介護」から「支援=社会復帰」へと変わりつつあります。そしてデイサービスの役割は次のフェーズに入り、「地域社会への橋渡し」という新しい役割が求められていると考えました。まずは介護保険からの卒業を目指し、その後の支援のあり方を再構築することで、再び地域で活躍できるようにと、取り組みをスタートさせています。
〈運営資金の確保〉
介護保険
〈これまでに苦労したことと、それをどのように乗り越えてきたか〉
目標は「介護保険からの卒業」であり、それまでにない取り組みだったことから、本当にそんなことが可能なのかと考えるスタッフの教育は非常に重要でした。そして、「まだ働ける」「もう一度何か地域でやりたい」と言っていた利用者本人も、実は半信半疑でスタートしている場合が多く、モチベーションを保つのが大変でした。
まずは、些細な希望から少しずつ叶えることで前向きに取り組めるように、個別の希望を叶える聞き取り・取り組みを行いました。そこで1つずつステップを踏みながら希望(杖を使って歩く→杖なしで歩く→砂利道を手すりなしで歩く、などのステップ)をクリアすることで、本人、そしてスタッフのモチベーションを維持することができました。
最も苦労したのは、本人が望む姿(介護保険の認定が外れて社会復帰する)に対し、家族の理解が得られないという大きな壁を乗り越えることでした。デイサービスを利用できなくなったら困る、といった漠然とした不安があり、まずは家族に対して理解を得るための時間と、卒業後の過ごし方の提案など、さまざまな準備が必要でした。本人の自信、卒業後の支援のあり方などを根気よく説明していくことで、徐々に理解を示す家族が増えてきました。また、実際に介護保険を卒業して社会で活躍している事例を示すことで、理解を得られやすくなってきています。
〈うまくいっていること、やってよかったと思うこと〉
実際にやってみると、さまざまな障壁にぶつかることが多かったのですが、スタッフ教育を十分行った上で取り組み始めたことから、スタッフが非常に前向きに具体性のある方法などを考えるようになり、予想以上に早く効果が出ました。介護保険を外れてから、その後について考え始めるのではなく、介護保険を外れる前の段階で、しっかりタイミングを見計らって卒業後の過ごし方に取り組むことで、スムーズな移行ができたケースが多くありました。
また、要介護認定されたままデイを終了して卒業に挑戦する利用者も出てきました。デイサービス利用時は後ろ向きの利用者が多いのですが、実際に卒業した方が再びデイサービスに戻ることは、今のところほとんどない状況です。そういった卒業者の活き活きとした姿を見ることは、利用者のモチベーションを上げると同時に、相乗効果でスタッフのモチベーションも上がり、介護施設で働くスタッフのやりがいにもつながっています。
〈うまくいっていないこと、今、悩んでいること〉
まだまだ家族の理解は得にくいのが現状で、その背景の1つには、介護保険を卒業した後の地域社会における受け皿の少なさにあると思います。
介護福祉業界でも、「一度、要介護認定を受けたら、社会で活躍することは難しいのではないか」という古い認識をもつ人が多いのが実情です。一般企業などは、なおさら、そのように考えてしまうことも理解できます。そのため、実際には十分就労できる能力も体力も経験も持ち合わせているのに、その受け皿となりうる場所もチャンスもないことに、大きな問題があると感じています。一介護事業者では、そういった受け皿を探すのには限界があり、地域社会全体の課題として、もっと広く取り組める体制が必要だと感じています。
そのため、地域社会の受け皿を開拓する手段の1つとして、弊社ではデイサービスのスタッフとして働いてもらうなどの取り組みを行っていますが、それも人数に限りがあります。
まずは、家族の理解を得るために必要な「ここでも働ける、活躍できる」という受け皿の開拓と確保に、他法人や行政、一般企業と共に取り組んでいけたらよいと考えています。
〈持続させるための仕組みや工夫〉
持続させるためには、エビデンスをつくり、数多くの事例をつくることが必要と考えています。そのためには、これまでのデイサービスで行っているさまざまなリハビリ(生活リハビリなども含めて)などの取り組みを具体的、かつ数値で表せるようにしています。
また、介護保険から卒業したとしても、地域社会で活躍できる受け皿が少ない課題に対しては、まずは弊社のスタッフとして、そして地域の「いきいきサロン」の運営メンバーとして、活躍する卒業生を増やすことに取り組んでいます。サロン運営者からは「サロンに通う人たちの励みにもなるので、こういった方々にもっと活躍してもらいたい」と言われています。まずは、卒業した人を地域へとつなぐ橋渡しとして工夫をしている段階です。
〈今後のビジョン〉
これから団塊の世代が後期高齢者になり、日本の後期高齢者がますます増加していきます。そして超高齢社会においては認知症の割合が増加するだけでなく、少なからず誰もが認知症の症状をもつのではないかとさえ言われています。そのような中で、今まで通りの地域共生という考え方では社会も財政も成り立たないのではないかと思っています。労働力人口は下降の一途をたどる中で、後期高齢者だから、要介護者だから、要介護認定を受けているから、といった理由で地域社会の人的資源とみなされないのは非常に残念です。
高齢者や要介護者といった一面だけで、地域社会の人的資源から外されることのない社会をつくり、弊社のある地域が、生涯現役が当たり前の「モデル地域」となって、発信していきたいと考えています。そのためには、一介護事業者だけでなく、行政や近隣の介護事業者、一般企業などを巻き込めるよう、改めて新しい仕組みをつくっていきたいと思います。
■事業名:介護保険からの卒業、そして地域へ
■事業者名:株式会社つるかめ
■取材協力者名:伊藤 順哉(株式会社つるかめ代表取締役社長)
■事業所住所:〒994-0004 山形県天童市大字小関1204-5