〈コンセプト・特色〉
年齢や障害の有無に関わらず、役割をもって心豊かに暮らす地域づくり
〈概要〉
アンダンチは、約1,000坪の敷地内にサービス付き高齢者向け住宅「アンダンチレジデンス」を軸に、看護小規模多機能型居宅介護「HOCカンタキ」、障がい者就労継続支援B型事業所「アスノバ」、企業主導型保育所「アンダンチ保育園」、レストラン「あんだんち食堂」を併設した多世代交流複合施設です。
レジデンスの玄関には駄菓子屋「福のや」を配置し、敷地中心にある「みんなの庭」には2頭のヤギのいる小屋もあり、近所には「ヤギのいるところ」と認識され、マスコット的な存在となり、子どもたちも気軽に遊びに来てくれる場所になっています。
〈運営主体〉
「株式会社未来企画」運営
サービス付き高齢者向け住宅「アンダンチレジデンス」
障がい者就労継続支援B型事業所「アスノバ」
企業主導型保育所「アンダンチ保育園」
レストラン「あんだんち食堂」
「医療法人モクシン」運営
看護小規模多機能型居宅介護「HOCカンタキ」
訪問看護ステーション「HOC訪問看護ステーション」
〈取り組みをスタートした時期〉
2018年7月1日
〈取り組みをスタートしたきっかけ〉
2015年7月に、介護事業として「小規模多機能ホーム福ちゃんの家」を開所しました。私たちが初めて介護事業を始めた頃は、外の人が知ることができる情報は極めて少なく、同じ小多機の他事業所の半数以上は、ホームページもないという状況でした。情報がないということは、外部の利用検討者や地域の人に対して閉ざされているということであり、内部の利用者・働く人もまた外部に閉ざされていると言えるかもしれません。
私たちはまず、その「閉鎖性」を変え、介護業界を外部に、そして、地域に開いていこうと決心しました。
小多機を運営するにつれ、ご家族や病院の連携室からの「住まい」のニーズに直面し、自宅での暮らしを支えることに主眼を置いている小多機では、住まいとしてのニーズには簡単には応えられないため、住まいの整備も進めることにしました。
小多機の開所前から、医療的ケアが必要になった高齢者の「今までの暮らしを続けたい」との思いに応えるために、小多機に訪問看護を加えたカンタキの事業化を見据えており、「暮らしの保健室」のような気軽に医療介護の相談ができる場所も作りたいと考えていました。
さらに、一般の方が気軽に訪れるようにするためには、飲食店と組み合わせることが面白いのではないかと考えました。食事からライフスタイルの提案をしたり、アイドルタイムに医療介護、食育などの講座を行ったりすることもできます。住民が情報に触れる機会を増やすことで、健康に対するリテラシーの向上にも寄与できるのではないかと思っています。
ちょうどその頃、銀行からの提案により土地区画整理事業地の1,000坪の土地と巡り合えました。その土地は「若林区なないろの里」という新たに田畑から住宅地へと転換された場所で、震災で被災された方々の集団移転地域の一部に指定されている地域でした。グループ法人である「医療法人モクシン堀田修クリニック」や小多機にも近く、現在も開発が進められている地域であり、新たな街の中で、共に成長していく形が取れるのではないかと考えました。企業主導型保育という新たな保育所の制度が整備されたタイミングでもあり、スタッフの働きやすさと日常的な多世代交流を促すための保育園を加えたものが、「アンダンチ」の原型になりました。アンダンチは小多機で得た手ごたえや地域の声、課題をもとに形にしていきました。

〈運営コスト〉
土地建物、運転資金は銀行から融資を受けています。
アンダンチの事業の中心はサ高住(50 部屋 54 名定員)ですが、カンタキは土地賃貸借をしており、その賃料を得るかたちを取っています。レストラン「あんだんち食堂」は、アンダンチ内の全事業所の給食業務を担っており、事業所の稼働が上がれば、事業所向けに120食程度の昼食が提供され、一般のお客様が食事された分が利益につながるモデルとなっています。
限りある社会保障費の中で、社会福祉事業の収益確保は、正直容易ではなく、収益性と人材確保の両輪をバランスさせなければなりません。加えて、人口減少社会においては、複数の相互補完的な事業を組み合わせて、上手に収縮していく必要性があると考えています。
〈運営に必要な費用概算〉
2,000万円/月
〈持続させるための仕組みや工夫など〉
サービス付き高齢者向け住宅は、相場よりも月4〜5万円ほど高い価格設定をしており、入居は思ったように進みませんでした。それでもその価格の価値はあると信じ、安易に価格を下げずに運営してきた結果、収益が安定してきました。
また、視察などは有料で対応しており、視察料をアンダンチの対外的なイベントなどに補填し、地域づくりとして還元しています。
空いている時間やスペースは、地域で活動したい方に積極的に貸し出すようにしています。合わせてボランティアや学生のフィールドワークも積極的に受け入れ、弊社の取り組みを体感していただく機会を確保しています。

〈これまでに苦労したことと、それをどのように乗り越えてきたか〉
今までにない形の複合施設ゆえに、事業所を超えての連携が難しく、手探り状態でした。統括するポジションの職員を置いていたものの、連携は難しく、あまり円滑な運営にはならず、その後は、一人に権限を集中させたことを反省し、各事業所の管理者に多くの権限を委譲しました。グループウェア上でのやりとりも含め、こまめにコミュニケーションを取ることで、連携はスムーズになり、改善できています。
〈うまくいっていること、やってよかったと思うこと〉
福祉業界は人手不足と言われる中、計画的に採用ができています。隣県からの求職者もいて、福祉を通じた地域づくりをしたいと思う人に少しずつでも、弊社の取り組みが届いていると感じています。
地域の色々な方が気軽に来てくれている姿を見ると、やってよかったと思います。特に土日は子どもたちがたくさん来て、ヤギと遊んだり、レストランで食事をしたりと、緩やかな時間が流れています。
〈うまくいっていないこと、今、悩んでいること〉
各事業所の管理者を統括するポジションが不在で、管理者の上が代表というかたちになっていて、150名ほどのスタッフを抱える中でのマネジメントが難しくなってきたと感じています。しかしながら、統括する人材への不信感が職員にまだ残っており、抵抗感があるようです。統括するポジションを内部昇格にするか、外部から召喚するかについて悩んでいるところです。
〈今後のビジョン〉
少子高齢化が進み、多死時代を迎える日本において、様々な状況の人が楽しく幸せに豊かに過ごして最期を迎えることができる社会を創ることが、高齢者のみならず、今の子ども世代にとっても非常に重要であると考えています。アンダンチレジデンスでは、要支援から介護度が重い方まで入居しており、看取りも行っています。医療体制が整っているため、入居者側もスタッフ側も安心できる体制になっています。かつての日本で自宅で看取っていた時のように、子どもたちにも「死」を感じる機会が必要だと思います。それが多死社会を生きる子どもたちには最大の教えとなり、より良く自分の人生を生きようと考えるきっかけにもなるはずです。
様々な状況の人が幸せに過ごせる場、各世代がしっかりとつながっていく場を創り出し、一人ひとりが心地よいと感じる「地域の縁側」を目指し、多様性を認め合える地域づくりに貢献したいと強く思っています。
■事業名:アンダンチ
■事業者名:株式会社未来企画
■取材協力者名:福井 大輔(株式会社未来企画代表取締役)
■事業所住所:〒984-0017 宮城県仙台市若林区なないろの里1-19-2
■サイト:https://andanchi.jp/
