〈コンセプト・特色〉
想いをカタチにする
〈運営主体について〉
「特定非営利活動法人町田市つながりの開」
2011年に「つながりの開」という当事者、家族、支援者、行政、市議会議員、医師などから成る任意団体を設立し、当事者と家族が再び楽しい時間を過ごせるようにと、2カ月に1回、日帰り旅行や季節の行事などのイベントを開催してきました。最終的には、50人以上の集まりになり、その仲間のなかでBLGを立ち上げる構想が生まれ、2012年6月8日NPO法人化し、同年8月1日DAYS BLG ! がスタートしました。
〈取り組みをスタートした時期〉
2012年8月1日
〈概要〉
■介護保険サービス 地域密着型通所介護
月曜〜土曜オープン、定員10名/日
「利用者」と「スタッフ」という、支えられる側と支える側の線引きをしていません。集うすべての人がメンバーと呼ばれ、時間を共有し、活動を一緒にする仲間という水平の位置付けであるからです。例えば、認知症と診断され地域とのつながりが希薄、もしくは寸断され孤立している認知症の人たちも安心して「素」になれるような集える場がBLGです。そこで仲間意識をもった人たちがグループとなり、地域へ出かけて行き、地域に貢献する仕事を引き受けています。
仕事の一部は有償の仕事として、企業から謝礼が支払われます。地域に貢献し、時には謝礼をもらうことは、生きがいにつながります。働くことは、地域とのつながりを生み、その人の役割をつくり、仲間を育みます。
こうした活動は、通所介護事業の一環として行われており、BLGの活動は多岐に渡っています。その一つが、働くことを中心に据えた活動です。
〈取り組みのきっかけ〉
約20年前、「働きたい」という若年性認知症の人に出会いました。そこで法人内での仕事(役割)を提供していましたが、そのうち「本物の仕事」がしたいと言われ、町田市内の保育園でプール掃除や草取り、教室の床のワックスがけ、ペンキ塗りといった仕事を活動として取り入れるようになりました。しかし、メンバーから「労働の対価がほしい」という想いが聞かれるようになり、その想いをカタチにすべく行政との交渉をスタートさせていったのです。
しかし、当時は介護保険サービス提供中にメンバーが働いて謝礼を受け取るという事例はなく、「前例がないから」という理由で「不可」とされていました。「介護を受けている人が働けるはずがない」と思われていたからです。
例えば、医療保険では、病気を治療しながら、もしくは医療サービスを受けながら働いている人が多くいます。つまり「働きたい」という想いを実現するために医療サービスを利用しているのです。障害福祉制度も同様で、障害のある人が、障害福祉サービスを利用しながら「働きたい」という想いを実現しています。しかし、介護保険制度では働きたいという想いを持っていたとしても介護サービスを受けながら働くことができませんでした。「誰のための、何のための介護サービスなのか…」と強く憤りを感じました。
この制度を変えていかなければ、目の前のメンバーの想いを実現できないと考え、まずは上司に相談しました。しかし、よい回答や助言が得られなかったので、町田市役所に相談したところ、町田市役所では東京都に相談してほしいと言われ、東京都では厚労省に相談してほしいと言われました。そこで、メンバーと一緒に厚生労働省に何度も足を運び、想いを直接届けたり、本人たちの意見交換会を開催したり、全国の主要団体からも提案していただくなどしました。その結果、私たちが厚生労働省に初めて足を運んでから5年経ってようやく認められ、国が通知の発出に至りました。
その通知が発出されたときには、すでに法人を退職していたこともあり、自ら法人を立ち上げ、DAYS BLG ! をスタートさせました。
〈運営コスト〉
収入は、介護保険制度のサービスなので、保険給付とメンバー自己負担(1〜3割)です。支出は人件費、固定費、車両及び燃料費、税金等で約2700万円。その他は介護保険外サービスや助成金、補助金等の収入があります。
〈運営に必要な費用概算〉
225万円/月
〈運営資金の確保〉
介護保険、その他の公的補助、介護保険外サービス
〈持続させるための仕組みや工夫など〉
今後は少子高齢化が広がっていくことで、介護保険サービス給付は減算されていくでしょう。そのような中では、やはり保険外サービスをいかに充実させていくかが問われていくだろうと思います。
もちろん現サービスを持続させていくことも重要であり、稼働率をいかに上げていくことができるかが分岐点となります。しかしそれよりも大切なことは、地域にある同業種とどのような色分けをしていくのかということです。金太郎飴のようなどこを切っても同じサービスではなく、特徴を持ったサービスに転換し、利用者から選ばれる事業所にならなければ、生き残ることは難しいでしょう。
〈これまでに苦労したことと、それをどのように乗り越えてきたか〉
以前は、介護保険サービス提供中にメンバーが働いて謝礼を受け取れるという前例がなく、メンバーの「働いた対価がほしい」という想いに応えることができませんでした。保険者や国に可否判断を仰いでも回答を得られず、かといって勝手に活動(謝礼を受け取る)を実施することもできず、板挟みになっていました。
そこを突破するために、メンバーと一緒に厚労省へ何度も足を運び、また厚労省で本人意見交換会を開催してもらうなど、地道に動き、最終的には、認知症の人と家族の会や関連団体からも提言していただくなど、5年間かけて交渉しました。
〈うまくいっていること、やってよかったと思うこと〉
メンバーから「やっぱり対価をもらえることがいいよね。他では考えられないし、我々の活動が社会に認めてもらえたという実感と、生きがいにもつながる」などといった声を聞くことができました。さらには皆さんの表情がとても輝いていることです。
〈うまくいっていないこと、今、悩んでいること〉
コロナ禍により、協業していた企業が倒産し仕事の発注や種類が減ってしまったことです。対面の営業も難しいですが、メンバーの「働きたい」という気持ちに応えていくためにも、今だからこそ可能なことにチャレンジしていきたいと考えています。
例えば、保育園や幼稚園の先生が残業して行っている雑務を、BLGで分業することができれば持続可能な仕事となるでしょう。
〈今後のビジョン〉
「100BLGプロジェクト」
BLGを広げていくには、着実にその地にBLGのエッセンスが落とし込めるような研修システム(学び合える土壌)をつくる必要があります。誰のためのサービスなのかをきちんと考え、政策に反映してもらえるように、全国一律で取り組んでいくための土壌づくりです。その地域の特徴や文化を継承しつつ、BLGのエッセンスが加わることで、仲間とともに、認知症の人が「素」になれるような場所、誰もが「素」になれるような場所を作っていくことができるように考えていきたいと思います。
この取り組みは、100カ所作って終わりではなく、その後のネットワーク化が重要だと考えています。具体的には、100カ所のBLGをつないで、職員のキャリアパス、キャリアアップを目指します。ケアの現場には、施設長になって終わりではなく、もっと可能性を秘めた人材が多くいます。ネットワーク化することで、BLGの事業に横断的に関わったり、新たにBLGの事業所を立ち上げたり、100BLGのノウハウをパッケージ化して海外に進出したり、制度外のサービスを設計したりなどのさまざまなキャリアパスが考えられるようになるでしょう。100カ所あれば、交換留学なども可能です。
これまで一貫して、「前例がなければ作ればよい」「仲間がいなければ声をかければよい」という思いで行動してきました。本プロジェクトの取り組みは、新しいことを始めたり、声をかけたりしやすくなるような土壌づくりになると考えています。誰のためのサービスなのかを突き詰めていく準備として、理想を掲げるだけでなく、実現する場をつくり、実際に社会を変えていきたいと思います。
100BLGの取り組みは、これまでの活動の集大成でもあります。十分に若手が育ち、バトンを渡せるときがきたら、渡したいと思います。
■事業名:DAYSBLG !
■事業者名:特定非営利活動法人町田市つながりの開
■取材協力者名:前田 隆行(NPO町田市つながりの開 理事長)
■事業所住所:〒194-0043 東京都町田市成瀬台3−15−19