〈コンセプト〉
誰もが誰とでも楽しめる観光地域づくり
〈運営主体〉
「八ヶ岳観光福祉デザイン室」
コアメンバーは、介護福祉士1名と、旅行会社に勤務する1名の2名です。仕事をしながら、この活動を行っています。その他、外部のデザイナーや、プロジェクトごとに募集するボランティアと共に活動しています。
〈取り組みをスタートしたきっかけ〉
介護福祉士として働く中で、今まではあちこちに出かけていた人が、介護をきっかけに、デイサービスにしか行けなくなる現状を見て、「私が歳をとったときには、デイサービスじゃなくて、いつもの場所に行き続けたい」と思うようになりました。
数年前に八ヶ岳へ移住してきて、豊かな自然を中心とする観光資源はたくさんあるのに、障がいのある人や、認知症のある人は遊びには来ていない、それどころか八ヶ岳エリアは一時期に比べ、観光客自体が減少しているという現実を目の当たりにし、八ヶ岳を「誰もが誰とでも楽しめる観光地域にしたい」と考えました。
活動するにあたり、ホームページやチラシで使えるロゴの製作について、デザイン会社に問い合わせたところ、製作には8万円かかるという返答でした。まだ収入の見込みもない状態で捻出できる金額ではなく、断念しました。
しかし、その数年後、実行委員として参加していた音楽フェスで声をかけられました。「僕も高齢者や障がい者、子どもの居場所づくりについて、ずっと、何かできないかと考えていたんです。メンバーとして手伝わせてもらえませんか」。それが、デザイナーの篠鉄平さんでした。
また、あるとき知人から「紹介したい人がいる」と言われ、でこぼこのある山道やぬかるんだ道でも、楽に使用できるJINRIKIという車いす(補助装置)をもって現れたのが、藤田然さんでした。車椅子に乗ったままでも高原リゾートを楽しめるようにと、JINRIKIの開発に携わり、実際にリゾート施設に何台も販売しているということでした。
こうして、「誰もが誰とでも観光地域づくり」というコンセプトの元、介護福祉士、デザイナー、観光業の3名で立ち上げました。本業が忙しくなってきた篠さんは、現在は外部協力というかたちでサポートしてくれています。
〈初期の活動資金の調達方法〉
最初はクラウドファンディングで125万円を集め、その資金で、アウトドア用の車椅子をはじめ、テントやベンチなどのアウトドア用品、さらにパンフレットなどを用意しました。
〈現在の主な活動〉
私たちは、障がいのある人や認知症のある人だけが参加する「福祉イベント」をしたいとは思っていません。ですから、独自のイベント企画はほとんどしません。地域で開催されている既存のイベントに、障がいや認知症のある人たちも一緒に参加し、楽しめるようにするための合理的配慮の方法を、イベント主催者と具体的に考えながら、誰もが楽しめるような環境をつくる活動をしています。
私たちと一緒に運営する機会を通じて、地域の方々が、イベント以外の場面でも「誰もが楽しめるようにするにはどうしたらいいか」と考え、配慮できるようになったらいいな、と思っています。
イベント時には、SNSでボランティアを募集しています。人を集めるという意味では、それほど苦労はしていません。大学のゼミ単位で参加してくださるケースや、障がいのある子どもが参加するスキー教室に、関東から毎回参加してくれるボランティアさんもいます。
また、各地の美術館や高齢者施設と協力して、認知症のある人も美術館を楽しめるプログラム「認知症×美術館」を定期的に行っています。美術館(社会資源)を活用し、認知症のある人も楽しめるアクティビティを構築することによって、住んでいる人も旅する人も楽しむことができる地域づくりを目指しています。
認知症のある人も行ける場所ではなく、行きたい場所に行けるきっかけづくりをしています。
〈運営コスト〉
地域のイベントでは、どうしても持ち出しが多くなってしまいます。謝礼をいただける場合には、その一部(1~2万円)を今後の活動資金のために蓄えています。
また、「認知症×美術館」では、美術館利用料、アートコンダクター講師料、椅子のレンタル代、広報費、ネームシールやペンなどが必要な経費です。
主催者によって、費用負担や参加費の設定が変わります。
■平山郁夫シルクロード美術館で開催の場合
・主催者:山梨県北杜市 市民部介護支援課包括支援担当
・協力:公益財団法人平山郁夫シルクロード美術館、一般社団法人アーツアライブ、公益財団法人認知症の人と家族の会 山梨県支部「虹の会」
・講師代、美術館使用料(入館料)、告知のためのポスター作成や印刷、集客まで、市の予算で行っています。2020年以降は文化庁の助成金を利用して継続の予定です
・参加料は、無料です
・団体は、企画立案と、講師、スタッフとしてイベントの実行を担当します
・集客は、北杜市地域包括支援センターの協力を得ています
・イベント当日は、認知症キャラバンメイトが見守りなどのスタッフとして参加しています
・行政、美術館、地域団体が一体となってイベントを実施します。地域の認知症のある人、施設入居者、家族介護者、地域住人などが参加者となります
■山梨県立美術館で開催の場合
・主催者:山梨県立美術館
・協力:一般社団法人アーツアライブ
・講師代、美術館使用料(入館料)、告知のためのポスター作成や印刷、集客まで、美術館の予算および文化庁助成金を利用しています
・参加料は、無料です
・団体は、講師としてイベントの実施を担当します
・集客は、地域包括支援センターや社会福祉協議会、認知症の人と家族の会などが協力しています
・美術館、地域団体が一体となってイベントを実施します。地域の認知症のある人、施設入居者、家族介護者、美術館関係者、地域住人などが参加者となります
■長野県北澤美術館で開催の場合
・主催者:ユニバーサルフィールド実行委員会、八ヶ岳観光福祉デザイン室
・協力:公益財団法人北澤美術館、富士見高原リゾート、一般社団法人アーツアライブ
・講師代、チラシデザイン、印刷代、椅子レンタル料、懇親会お茶代、アンケート用紙印刷代には、長野県諏訪地域元気づくり支援金を活用しています
・美術館使用料(入館料)は、ご好意で美術館協賛となるため無料です
・参加料は、お一人1,000円(認知症のある方、付き添いの方、デイサービス、施設入居者など事前予約された方はご招待としています)。当日の参加者、美術館関係者など一般の方からは、参加費をいただいています
・集客は、SNSでの告知、地域の施設へのチラシ配布を行います
・送迎の要望があった方へは対応を行います
・美術館、地域団体、企業が一体となってイベントを実施します。地域の認知症のある人、デイサービスなど施設を利用されている方、家族介護者、美術館関係者、地域住民などが参加者となります
〈運営上の課題〉
収益化が図れていないことは、不安要素です。これから活動を継続するためには、コンセプトを維持しつつ、収益性のある事業も考えなければいけないなとは思うのですが、その点について私はどうも苦手です。
また、今はそれぞれ別の仕事を本業としているので、お互いに意見を交わしたり、プロジェクトの構想を練ったりする時間を思うようにつくれないため、なかなか進まないという課題もあります。本業が忙しくなるのはありがたいことですが、その分、収益性の低い活動の優先順位は下がってしまいます。その点では、本業との相乗効果が十分に図れていないのかもしれません。
ただ、私が以前、別の団体を立ち上げた際に、メンバー間で目指すゴールが途中で分かれてしまい、結局活動自体を諦めたという苦い経験もしたので、今は焦らずに続けていこうと思っています。
〈やってよかったと思うこと〉
美術鑑賞会へ参加された方が、「楽しかった!」と言ってくださると、やっていてよかったと思います。私たちの活動がきっかけで、外出するきっかけをつくれたことにやりがいを感じます。介護者、友人など認知症のある方と一緒に参加をしてくださった方がとても穏やかな表情をされていることなども喜びです。
■事業名:八ヶ岳観光福祉デザイン室
■事業者名:任意団体 八ヶ岳観光福祉デザイン室
■取材協力者名:横山 綾子(八ヶ岳観光福祉デザイン室代表)
■取材・まとめ:立崎 直樹(有料老人ホーム勤務)
■取材時期:2020年12月