〈コンセプト〉
「元気なときから看取りまで」制度の枠組みにとらわれない新しいカタチ
医療・看護・介護その他の社会資源を制度の枠組みにとらわれず複合的に組み合わせ、地域で援助を必要とする者に対して日常生活の包括的なケアを適切に提供する事業を目指します。地域とのかかわりを考えていけば、よくわからない家みたいな施設に興味をもって頂き相談に来られるようなつながりをもち、自然にうちの事業所を使ってもらえるようになればいいなと思います。
〈特色〉
まるごとケアの家里・つむぎでは、一軒家の中に制度が3つ入っています。認知症対応型通所介護10名、住宅型有料老人ホーム8名、日中一時支援事業(障がい者)3名を併設型で運営しています。しかし、どうしてもそのくくりの中でやろうとすると制度からこぼれ落ちてしまう人がいます、そういった方は、実費サービスとして介護保険外デイサービスで3名をお預かりすることもあります。
〈法人概要〉
■NPO法人里・つむぎ八幡平
・まるごとケアの家 里・つむぎ
・共生型グループホーム 白山の里
・住宅型有料老人ホーム ぱんたれい
・認知症対応型グループホーム ぱんたれい
・居宅介護支援事業所 里・つむぎ
・小規模多機能ホーム くるまっこ
・障がい者グループホーム 野駄の家
■一般社団法人すばる
・地域食堂 なつかしの家
・すばる 農業部門
〈運営コスト〉
常勤が7名、パートが3名、車2台と従業員の駐車スペースも必要になるので人件費が一番大きいです。収益率は光熱費など全部のコストを差し引いても約1割が残るような感じです。事業全体でみると他の事業所よりはよいので、ちょうどバランスがとれている状態です。
〈モチベーション〉
僕は福祉をやりたいと思って始めた人間ではないのです。元々、輸入家具や絵画を扱うインテリア事業を行っていたのですが、41歳でお店をたたみました。その後は、ホテルマンや色んな仕事を転々としたのですが、組織の人間にはなれませんでした。
そんなときに高校の先輩から社会福祉法人の立ち上げと特別養護老人ホームの設立を手伝ってほしいと話があり、「福祉なんか、かじったことがない」と伝えると、「パソコンが使えればいいから」と準備の手伝いをすることになりました。その後、立ち上げた施設の事務長として働きました。ユニット型の施設だったのですが、ケアの仕方や職員の働きぶりを見て次第に疑問を感じるようになった頃、母も認知症を発症したため、自分の思う介護の実現と母を看取るための施設をつくりたいと思い、独立しました。
この仕事を始めて思いましたが、利用者さんは誰一人同じ人はいません。僕は飽き性なのでいつも変化があるこの仕事が合っているのかもしれません。声かけ一つで反応が変わることにはびっくりします。医療との決定的な違いは、利用者との対話やふれあいで親密にかかわれることだと思います。ウチの事業所では、お看取りは日常生活の一部ですが、これまで法人全体で24名のお看取りをさせていただきました。何で僕を選んでくれたのだろうと不思議な思いにとらわれます。その方の最期に立ち会える仕事は、ほかにないと思うと幸せですね。
〈人材確保、育成〉
人材確保については、職員の友達や知り合いからの紹介が多いですね。盛岡から車で40~50分はかかる田舎で、人もいないし若い人もいません。「誰かいないかー」と普段から声をかけています。働く環境としては、ほとんど残業がなく、多い人で月に4、5時間です。
人材育成については、毎月1回17時半から1時間程度の勉強会をしています。研修に行ってきた人が講師として話すことや、ケアマネについて語ることもあります。あとは自分の気持ちを伝えるために年4回話す機会を設けているのと、毎朝Zoomミーティングを15分程度行っています。4事業所がそれぞれ夜間の様子などを報告しています。また、毎月の運営会議では、理念や各事業所が立てた目標を共有しています。
〈失敗談〉
ヘルパーステーションを1年で潰したり、老人下宿は収益がとれずに辞めたりしましたが、一番は職員に思いを伝えきれずに彼らが辞めていってしまったことですね。コミュニケーションが不足していたのだと思います。だからこそ、毎月機会を見つけ各事業所を回り、また、オンラインを使ってコミュニケーションを図っています。
〈開業時、苦労したこと〉
資金が足りなくなったことですかね。開業時に日本財団の福祉拠点整備事業補助金を使いました。約940万円の補助をいただき、残りは日本政策金融公庫から700万円ほど借りました。改装に1,300万円かかり、運転資金が340万円ありました。その中から中古家具備品を揃え、250万円が運営費や職員等の給与でした。4月に開所して資金が足りなくなり8月に300万円借りました。
それ以降は何とか順調に回りだして、今に至ります。私は実家の中古住宅がかなり古かったので改装にお金がかかりましたが、よい中古物件であれば半分程度で済むかもしれません。その他、共生型サービスを行う際には、高齢者事業と障がい者事業を同じ空間ではやってはいけないなど行政から指導が入ることもあり、そういった面では建築の設計に工夫が必要かと思います。まるごとケアの家では、宅老所という概念から、高齢者も障がい者もごちゃ混ぜにわいわい過ごしています。
〈持続する仕組み〉
変化を恐れないことです。介護保険も3年に一度大きく変わるので柔軟に対応をしていくことだと思います。自分の中に常に課題をもって、変化を恐れなければ、やりがいにつながって続けていけると思います。
〈今後のビジョン〉
小規模多機能と認知症デイを共生型サービスにしていきたいと思い、5月からスタートさせる予定です。小規模多機能は定員29名なので、その内の26名を高齢者にして残りの3名は障がいの基準該当サービスを利用し共生型にしたいと思っています。
例えば医療的ケア児を受け入れたりしていくことを考えています。現在、八幡平地域には預かってくれるところがないんですね。医療的ケア児の場合は、お母さんは休みなく、ずっと365日子どもを見なければいけないので、すごく大変だと思います。一人でも二人でも、もし預かることができれば多少お母さんたちの負担軽減になるのかなと思います。社会の身近にある課題や疑問に対して、何か力になりたいと思っています。
「仕事って何のためにするの?」と考えたとき、お給料を得て生活のためにというのはもちろんですが、それ以外のところでもやりがいをもてると、もっといいですよね。人生の3分の1は仕事に費やすわけですから、「自分を向上させる」とか「人間性を高める」とか「幅を拡げる」とかそういう観点で仕事を考えることができたら、仕事ってもっと楽しくなると思うんです。お金だけを目的にすると、いずれ不満が出てくるんですね。やりがいって人が与えてくれるものではないので、自分で見つけるしかないですよね。そういったことを若い人たちに伝えていけたらと思います。
■事業名:まるごとケアの家里・つむぎ
■事業者名:NPO法人里・つむぎ八幡平/一般社団法人すばる
■取材協力者名:高橋 和人(NPO法人里・つむぎ八幡平/一般社団法人すばる理事長兼統括施設長)
■事業所住所:〒028-7112 岩手県八幡平市田頭12-94-1
■取材・まとめ:大木 幹也(特別養護老人ホーム勤務)
■取材時期:2021年3月