〈コンセプト〉
認知症になっても「いつでも、どこにいても、誰と出会っても自分らしく暮らせるまち」を目指して
〈特色・概要〉
地域全体で認知症の理解が深まり、認知症になっても尊厳と希望をもって安心して暮らせるまちづくりを官民協同で目指しています。
地域の人たちにアンケートで実態を調査していくなかでキーワードがみつかっていきました。そのキーワードを基に地域認知症ケアコミュニティ推進事業として4つの柱が作られました。認知症コーディネーター養成研修、物忘れ予防・相談検診、小中学校の絵本教室、模擬訓練の4つです。
①認知症コーディネーター養成研修
認知症の人の尊厳を支え、本人本位の認知症ケアや支援の牽引役となってもらえるように毎月2回の頻度で2年間の研修を実施しています。
講義だけでなく、実践学習もありパーソンセンタードケアの理解と理念の醸成や課題分析と適切な医療とケア・生活支援ができるようになることを目標に置いています。
②物忘れ予防・相談検診
早期発見をしたうえで適切な支援を目的とした検診を実施しています。
③小中学校の絵本教室
子どもの時から、認知症の人の気持ちや支援について学ぶため、小中学校での認知症の絵本の読み聞かせとグループワークを実施しています。
④模擬訓練
17年間の高齢者等SOSネットワークの模擬訓練を通して、認知症になっても安心して外出できるまちを目指しています。
この訓練では、認知症の人が行方不明になったという設定で、家族からの通報、連絡、捜索、発見・保護という一連の流れを実際に行っています。模擬訓練は年に1回、9月に実施しています。
〈取り組みをスタートした時期〉
2001年11月
〈取り組みのきっかけ〉
大牟田市内の介護事業所に勤務する職員(専門職)9名の運営委員で2001年11月にスタートした取り組みです。出発点は、「いつでも、どこにいても、誰と出会っても自分らしく暮して欲しい」という願い。
認知症の人たちを隠したり、「認知症になったら人生は終わりだ」と言われたり、身体拘束があったり、人権が度外視されている時代のなかで、本人を尊重したケアをまちで取り戻すため団体の専門部会として認知症ライフサポート研究会が発足しました。
〈運営コスト〉
大牟田市サービス事業所協議会というさまざまな介護事業所の法人が加入している非営利団体の母体から捻出しています。
会員には研修等の学びの機会を提供しています。
また地域認知症ケアコミュニティ推進事業については、市から委託費をいただき運営しています。
〈持続させるための仕組みや工夫など〉
前任から代表のバトンを渡されたときに、心強い副代表2名と部会長1名、これまで配置のなかった地域認知症支援推進員1名も選任されました。
私が介護職員で、副代表は医療従事者と、医療現場より地域支援を展開されている方。部会長は地域包括支援センターです。
全員、認知症コーディネーター養成研修を受講していて、大切なものを同じように認識しています。今までは一人がやれるだけの力で動いていましたが、これからは5人で協力しながらそれぞれの視点から考えることができていると思っています。
〈人材確保・育成のしくみ〉
認知症コーディネーター養成研修にて2年間の研修を受け、知識だけでなく人間観も育んでいっています。養成研修については企画や講師の方との調整も行い、その時にあった最適な人材育成を考案しています。
人材は、介護を担っている方だけでなく、看護師など医療を支えている方や地域支援を行っている方など幅広く対象にしています。すでに160名ほど受講されました。
さまざまな地域でチャレンジをされている方を講師に招き研修を実施しています。
〈やりがい、モチベーション〉
利用者さんが自分の働いている施設から違う施設や病院にいったとしても「その人らしさ」のバトンを受け渡し、受け取り、連携をとれたときはうれしいですね。
認知症コーディネーター養成研修などで理念を共有した仲間が増えていくことで、安心して暮らせるようなまちになっていくと感じられていくことがやりがいにつながっています。
課題はあるなかでも、出会う認知症の方々と真摯に向き合い、そこで喜んでもらえたときは大きな原動力となります。
〈これまでに苦労したことと、それをどのように乗り越えてきたか〉
模擬訓練によって地域の見守りのもと認知症になっても地域で暮らせるようになってきました。良い事例はいっぱいあります。
一方で、長年継続してきたことによって見えてくる課題もありました。
例えば、認知症の人を支えるための訓練を毎年実施しているなかで、中立的な立場で活動されていた住民が認知症になったときのことです。それを知った周りの住民は積極的に気遣うこととなり、本人はそうした対応を辛いと感じ、外出をしなくなったのです。もしかしたら、認知症は支えられる側という意識を植え付けてしまっていたのかもれません。
まずは認知症の人たちと出会っていくこと。そして研修や取り組み自体も当事者の人たちと共につくっていき、サポーターではなくパートナーでありたいと思っています。
〈うまくいっていること、やってよかったと思うこと〉
認知症コーディネーター養成研修を受ける前は、仕事の認識が時間から時間まで働いてお給料をもらえればよかったと思っていました。しかし、研修受講後は介護をしていく人間として大切なものを見落としていたことに気づきました。
一人ひとりの方に寄り添っていきたいと思うようになっていました。それから寄り添いたいと思えば思うほど、課題はたくさんあるということを知りました。そのなかでも仲間と一緒に課題に対して取り組めていけるのは、ありがたいです。
〈うまくいっていないこと、今、悩んでいること〉
介護現場は以前に比べても人手不足となっているため、ケアの質を高めていくのは難しくなってきています。
また認知症ライフサポート研究会も所属している職場も人手不足、そして新型コロナウィルスによってなかなか会議などへ出席できないということはあります。
そのような状況なためzoomなどのオンライン会議も活用していますが、まだまだ工夫は必要です。
〈今後のビジョン〉
当事者の人たちと一緒に、どういうまちになったらいいのかを考えていける場所づくりをしていきたいです。
それは、認知症の方だけでありません。子育てに困っているご家族の方や障害のある方、誰もが支えあう社会にしていきたいと思っています。
続けていくためにはやはり仲間が欠かせません。日々の仕事のなかで些細なことに悩みますが、仲間と集まることで一緒に考えることができて前向きになれます。
自分たちがやってきたことのなかで失敗は一つもなく、課題が新たに出てくると思うので一つずつ向き合っていきたいです。
■事業名:認知症ライフサポート研究会
■事業者名:大牟田市介護サービス事業者協議会
■取材協力者名:梅﨑 優貴(認知症ライフサポート研究会代表)
■事業所住所:〒836-8666 福岡県大牟田市有明町2丁目3 大牟田市福祉課総合相談担当内
■取材・まとめ:西嶋 利彦(放課後等デイサービス勤務)
■取材時期:2021年2月